音楽用語のはなし

Calando

カランド

だんだん遅くしながらだんだん弱く
消え入るように (太陽などが沈む)(rit. + dim.)

元の動詞はカラーレ (calare) で「上から下に下がる」、「減少する」。
大切なのは「ゆっくりつかまりながら、ある場所に降りていく」と言う感覚。

音楽的には速を急激に減速、音量を急激に減少させてはいけない。
ゆっくりゆっくり、注意深くそれを行う。

  • 救助隊がヘリコプターからロープにつかまってゆっくり降りる。
  • 水平線に太陽がゆっくり沈む。

ブラームス 六つのピアノ小品 作品118

Morendo

モレンド

だんだん弱くしながらだんだん遅く
消えるように (rit. + dim.)

「死ぬ」と言う意味の動詞モリーリレ (morire) が「~ endo」の形で現在進行形となっている。
「死に絶えていくように」、「生きる力をすべて消耗して命が消えていく」と言うニュアンス。

「死」と言っても、休止状態ではない。
「徐々に少しずつ生命力が衰えていき、衰弱して死に至る」と言う感覚。

ドビュッシー 月の光(ベルガマスク組曲より)

Smorzando

ズモルツァンド

だんだん弱くしながらだんだん遅く
消えるてなくなるように

モレンドとの違いはとても難しい。
1節にはモレンドが曲の最後にしか用いられないのに対して、ズモルツァンドは曲の途中に使用される傾向がある。

ズモルツァンドは「弱める」、「減ずる」、「和らげる」と言う意味の動詞アッモルツァーレ(ammorzare) から生まれている。
am に代わって、時間の継続を表す接頭語の s がついてズモルツァールという形になった。
つまり「和らげていくことを続ける」と言う意味になる。

ズモルツァンドの原形、アッモルツァーレはラテン語のモルトゥム (mortum = 死) とアドゥモルティアーレ (admortiare = 死ぬ ) と言う二つの言葉から生まれている。
なのでズモルツァンドにも「死に絶えて無に向かう」と言うニュアンスがある。
ただ、モレンドと比べると、ズモルツァンドの方が比較的穏やかで柔らかなイメージがある。
「死に絶える」と言うニュアンスは殆どなくなっている。

  • テニスで強く打ち合っていたボールのスピードを緩める。
  • 音量や振動数や周波数などを下げる。
  • 情熱や欲望を抑える。・色彩感の華やかさを抑える。

バルトーク ルーマニア民族舞曲 第3番 「足踏み踊り」

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Perdendosi

ペルデンドスィ

だんだん遅くしながらだんだん弱く
消えるように (rit. + dim.)

ペルデンドスィの原型動詞はペルデレ (perdere) 。
これは、「前にあったものがなくなる。」という意味。

ペルデンドスィは「~ end」の最後に si が付くが、これは「自分自身がそうなる」と言う意味。
英語の myself 同様、再帰動詞のは働きをしている。

音楽的には音自体が無くなっていくような雰囲気。
物理的に音量や速度だけでは不十分。表情や感情、それらが組み合わさった音楽そのものかも知れない。あくまでも「無くなっていく」ようなニュアンスが必要。

  • 髪の毛が無くなってしまった。 → 「髪の毛がペルデレ」
  • これ以上我慢出来ない。 → 「我慢をペルデレ」
  • 犯人を見失う。 → 「犯人をペルデレ」

こんな意味もある。

  • 電車をペルデレ → 乗り遅れる
  • 学校をペルデレ → 学校を休む
  • ズボンがペルデレ → ズボンがずれ落ちる

他にも目に見えない者を失うときにも使う。

  • 友人との良い関係を失う。
  • 平常心を失う。
  • 気を失う

リスト 2つの演奏会用練習曲より 「森のささやき」

Con moto

コン・モート

動きをつけて
速めに

con は英語の with 。
従って con moto は「動きと共に」と言うこと。
音楽的には単調でもなく、のんびりしすぎることもない一種の躍動感が生まれる状態。
自然と流れるようなスピード感が増す状態。
単に音楽が揺れたり、表情に変化が生ずると言うことではなく「スピードアップが伴う動き」。

モートの複数形はモーティ (moti) だが、これには「反乱」、「騒動」、「国家統一運動」のような国

オートバイもモートだが、正式にはモトチクレッタ (motocicletta) 。
モーターという単語もモートと同じ語源のラテン語モヴェーレ (movere = 動く) という動詞から生まれた。
モーターはイタリア語ではモトーレ (motore) 。

モートは「動き」を表す。

  • モートする → エンジンをかける
  • モートな状態 → エンジンがかかっている

歩くことを含め動きにまつわることにも使われる。

    モートしなさい → 体操しなさい

シューベルト 交響曲第7番(第8番)「未完成」第2楽章 D759

Mosso

モッソ

躍動して、動きのある、速く
andante mosso 速めのアンダンテ

コン・モートは動きがかなり前面に出ている感覚。
それに比べてモッソは「静止していない状態」、「動きが伴った、変化がある状態。」と言う感覚。

piu mosso
ピューは「より~で」と言う意味。
従って、「よりいっそう動きを持った状態で」と言う意味となる。

音楽用語辞典では…。
piu(ピウ) → もっと、今までより多く
piu mosso(ピウ・モッソ) → 今までより速く

meno mosso
メーノは「より少なく」と言う意味。
従って、「動きがより少なめに」と言う意味となる。

音楽用語辞典では…。
meno(メーノ) → もっと、今までより少なく(同義語 マイナス)
meno mosso(メーノ・モッソ) → 今までより遅く

  • 風が強く、波打っている海 → モッソな海
  • 天然パーマのほどよいウェーブのかかった髪 → モッソな髪

変わった用法

  • 手ぶれが起きてしまった写真 → モッソな写真

運動だけでなく、色彩などの変化がある状態

  • 雄大な海にゆっくり沈み行く太陽
  • 光と影が織りなす美しい森

レスピーギ 交響詩「ローマの噴水」より「夜明けのジュリアの谷の噴水」

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