表情
Vivace / Vivo
ヴィヴァーチェ、ヴィーヴォ
Vivace 活発に、速く、アレグロより速く
Vivo 生き生きと、活発に、速く(同語源 バイタリティ)
ヴィヴァーチェとヴィーヴォは「生きる」と言う動詞ヴィーヴェレ(viverer)から生まれた形容詞。
「生きている・・・」、「生活する・・・」、「活力ある・・・」、「生き生きとした・・・」など、生命力に関係した表情を表す。
ヴィヴァーチェは速さを表す言葉ではない。
生命力あふれた活発な輝きを表す。
演奏では動きのある生き生きとした表情であることが大切で、それが速いテンポ感につながっていく。
ヴィヴァーチェは子どもに関わる形容詞としてもよく使われる。
イタリアの子どもは明るく元気で少しもじっとしていない。
子どもが2~3人遊びに来ると家中ひっくり返ってしまう。
内心「うるさいぞ!!」と思ってもその子たちの親には「お宅のお子さんはヴィヴァーチェですね。」と子肉を言う。
ヴィヴァーチェには「速い」、「機敏な」と言うニュアンスもある。
頭の切れの良さを「ヴィヴァーチェな感覚」と言うが、単に頭がよいだけではだめで、どこかにウィットも感じさせないとヴィヴァーチェにはなれない。(輝くまばゆいひ
この輝きが色にもつながっていき、はっきりとした強い色で輝くような色調で描かれた絵を「ヴィヴァーチェな絵・色彩」とも言う。
ヴィヴァーチェとヴィーヴォは近親関係だが、その使い方には少し違いある。
- 日常的に使われている生きた言語 → ヴィーヴォな言語
- 生きている魂を持つ存在、すなわち人間 → ヴィーヴォな魂
ヴィーボには強調の意味が付加されることもある。
- ヴィーヴォな必要性 → とても必要
- ヴィーヴォなお祝い → 心からお祝い申し上げます
ヴィーヴォとヴァイタリティーとは深い関わりがある。
「人生」、「生命」、「活力」などを意味するヴィータ(vita)と言う言葉も、ヴィーヴォから生まれた。
そこからさらにイタリア語ヴィタリタ(vitalita)が派生し、英語のヴァイタリティーにつながっている。
ヴィヴァーチェ メンデルスゾーン 交響曲 第4番 「イタリア」作品90 第1楽章
ヴィーヴォ ショパン 華麗なる大円舞曲 作品18
Brio / Brioso
ブリオ、ブリオーソ
Brio 陽気、快活
Brioso 陽気な(に)、快活な(に)
ブリオはヴィヴァーチェの華やかで生き生きした表情に、アッレーグロの陽気さ、明るさ、楽しさが加わった言葉。
ヴィヴァーチェは元気が行き過ぎて迷惑になることもあるが、ブリオは羽目を外さない、人を不快にさせない、それでいてユーモアのセンスもある快活さを意味している。
(ヴィヴァーチェが必ずしも行きすぎるという意味ではない。節度ある生き生きした状態にも使われる。行きすぎる場合もあると言う意味。)
ブリオの形容詞がブリオ―ソ。
- プリオにあふれた人 → 明るく華やかな人
- アンダンテな人 → 良くも悪くもなし、まあまあな人
- レントな人 → 頭の巡りが遅い人
ベートーヴェン ピアノソナタ 第3番 作品2―3 第1楽章
Grave
グラーヴェ
重々しい、荘重な、ゆるやかに遅い
深刻で、自分では解決出来ないような重大な状況がグラーヴェ。
追い詰められた精神的な危機感、取り返しの付かない間違いを犯した深刻さなど、重苦しい精神的雰囲気に包まれる状態。
この状態を音楽に当てはめれば、かなり遅うテンポ設定になるかも知れないが、グラーヴェに重いと言う意味はない。遅くなるのはあくまで結果。
グラーヴェの名詞形グラヴィタ (grabita) は物理の世界では重力を意味する。
ここからもグラーヴェが速さの単位でないことが分かる。
ベートーヴェン ピアノソナタ 第8番「悲愴」 作品13 第1楽章
Brillante
ブリッランテ
輝かしい、華やかな
ブリッランテは光り輝くまばゆい世界。
ブリッランテな輝きとは生き生きとした明るさ、陽気に幸せな状態。
ヴィヴァーチェとブリオを合わせたような感じ。
英語のブリリアント (brilliant) と同義語。
ブリッランテをさかのぼって調べていくと、ギリシャ語の beryllos 、そこから生まれてラテン語のベリッルム (beryllum) と言う言葉に行き着く。
共に意味は「ベリッロ (berillo) のように輝く。」
ベリッロは日本語では緑柱石(ベリル)のこと。
緑柱石とは
緑柱石(りょくちゅうせき、英: beryl、ベリル)は、ベリリウムを含む六角柱状の鉱物。金属元素のベリリウムの名前は、この中から発見されたことに由来する。透明で美しいものはカットされて宝石になる。
- 昨日のコンサートはとても良かった、ブリッランテで音がキラキラしていた。
- 突出した非凡な能力を持つ人 → ブリッランテな人。
- スバラシイ仕事を重ねてきた人。 → ブリッランテなキャリアの持ち主。
ショパン 練習曲「黒鍵」 作品10―5
Pesante
ペサンテ
重々しく、重々しい、重厚に(に)
ペサンテは物理的な重さ、重苦しい雰囲気、困難な状況を指す心理的重さなどを指す。
物理的な重さ
- カバンにたくさん本が入っていて重い。
- 体重が多くて、体が重い。
- 鉄が重い。
厚さを表す(厚いものは重くもある)
- 厚着な人
- 厚い布団
健康(重さから来る不快感)
- 今日は頭がペサンテ
- 食べ過ぎで胃がペサンテ
状況や状態が困難(重苦しい)
- 経営危機の会社で責任がペサンテなトップの人たちの会議にはペサンテな(重苦しい)空気が漂う。
- 面白くもないペサンテな冗談を言いすぎ、ひんしゅくを買う → ペサンテな人(周囲の人の感情を害する)
グラーヴェと比較すると・・・。
グラーヴェほど深刻な重さではない。
また、グラーヴェは「物理的な重さ」を表すことがない。
ラフマニノフ 前奏曲 作品3―2
Leggero (Leggiero)
レッジェーロ
軽く優美に(鍵または弓を軽くおさえて、ノン・レガートで)
レッジェーロは軽さを示す。
ペサンテの反対語と考えればよい。
音楽の世界では leggiero と言う古い書き方がそのまま使われる場合が多いが、現在のイタリア語は”ジェ”を ge と書くので leggeroとなる。どちらを使っても同じ意味である。
ペサンテ同様、レッジェーロの軽さにもいろいろなニュアンスがある。
物理的な軽さ
予想より軽い荷物(なんだ、軽いや!!) → レッジェーロな荷物
暖かな空気はレッジェーロなので上昇する
やせている人 → 彼(彼女)はレッジェーロな体重
体調
体が軽くて調子がいい → レッジェーロを感じる
スムーズで俊敏な動き → レッジェーロな動き
繊細さ
画家の素晴らしい筆の使い方、ピアニストの繊細な音楽表現 → タッチがレッジェーロ
レッジェーロのマイナス面
軽薄な人 → レッジェーロな人
誰とでも一緒にベッドを共にしてしまうような尻軽女 → レッジェーロな女
- さらっとした軽い感じのワイン → レッジェーロなワイン
- 浅い眠り → レッジェーロな眠り
- 簡単にできてしまう容易な仕事 → レッジエーロな仕事
- たいして勉強しなくてもクリア出来るような試験 → レッジェーロな試験
- 頭痛でも軽いもの → レッジェーロな頭痛
- 心配事のない静謐な安らいだ心 → レッジエーロな心
リスト 超絶技巧練習曲集より 第5番「鬼火」
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