音楽用語のはなし

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Animato / Con anima

アニマート/コン・アニマ

Animato 生き生きと速く、元気に速く(同語源 animal[英]) / Con anima 活気をもって

多くの音楽用語辞典はアニマートとコン・アニマをほぼ同義語として扱っているが、それは誤りである。
両方とも「~に生命力を与える」と言う意味の動詞アニマーレ (animare) から生まれてはいるが、形容詞のアニマート、名詞のアニマでは意味が異なる。
アニマートは生き生きとした生命感から表現される「動き」を、コン・アニマは心の奥深くにある「魂」を込めて演奏する、と言うこと。

アニマートには生命があって「動きがある状態」を意味している。
従って、人間や動物はアニマートだが、直物は違う。(英語ではアニマル)

人の数が多くて活気ある状態もアニマート。

  • たくさん人がいて賑わっているお祭り → アニマートな祭り
  • 人通りが多く活気ある通り → アニマートな通り
  • 討論などで興奮して雰囲気が活発する状態もアニマート
  • 家は子どもによって活気づく → 子どもによってアニマートされる
  • 落ち込んでガッカリしている友人を勇気づける → 友人をアニマートする

楽譜にアニマートが出てきても即「速度を速めて元気に」ではいけない。
「魂、命を吹き込まれた動き」であり、無理に速められた状況を作ってはいけない。

アニメのことをカルトーネ・アニマート(直訳は「動く紙」)と言う。
紙に書かれた漫画に命を与えて動きをつけるのがアニメ。

アニマは生き物が持っているもの、すなわち「魂」、「精神」そのものを意味する。
アニマは人間に限らず「物の核」となる「最も中心にあるもの」をさす。

アニマには動詞的な「動かす」ニュアンスはない。
コン・アニマは「魂とともに」ということ。
演奏の際には「心の奥深くにある魂と交感して演奏して下さい。」と言う意味。

ショパンの作品には、よくコン・アニマが出現する。
特にゆったりした美しい旋律部分に、コン・アニマを表記している。
従って、アニマートとコン・アニマを同義にして「元気よく活気づけて、早く演奏する」というのは、大変な間違いである。
心の奥深い魂を込めて演奏するということは、「逆にゆったりとしたテンポ」になると言うこと。

  • 木のアニマ → 木の最も深い部分
  • ヴァイオリンのアニマ → ヴァイオリン内部にある支え( 魂柱 )
  • 神にアニマをゆだねる → 死へ旅立つ
  • 真っ白いアニマ → 汚れのない純粋な心
  • 黒いアニマ → 他人を無視して自分のことだけ考えるようなこと
  • 邪魔されたくないとき → アニマを壊さないでくれ

コン・アニマ ショパン スケルツォ 第2番 作品31
アニマート グリーグ ピアノ協奏曲 作品16

Dolce

ドルチェ

柔らかに、甘く、やさしく

ドルチェは基本的に「甘い」と言う意味。
甘さの代表である、お菓子を総称してドルチェという。
そこから転じて、「甘い」と言う感覚を元に様々な言い回しが生まれている。

砂糖の持つ「甘さ」を感じさせるドルチェ。

  • ドルチェなフルーツ、ドルチェなワイン。
  • 「ドルチェな水」 → 甘い水ではなく、塩気のない淡水を指す

優しさ、柔らかさ、愛情深い、デリケートなど、「感覚」のドルチェ。

  • ドルチェな女の子 → 優しい性格で愛くるしい女の子
  • ドルチェな視線を向ける → その人に恋をしている
  • ドルチェは女性に対する賛美の言葉で、男性には殆ど使われない。

困難、苦しさのない、疲れない、穏やかさのドルチェ。

  • ドルチェな坂道 → 勾配が緩やかな坂道など
  • ドルチェな素材 → 加工しやすく柔らかな木材や金属などの材料
  • ドルチェな気候 → 過ごしやすく穏やかで温暖な気候

エルガー 愛の挨拶 作品12

Grazioso

グラツィオーソ

優雅な(に)、優美な(に)、華やかな(に)

グラツィオーソは「上品」「優雅」「愛らしさ」「しとやかさ」「繊細」「優美」「洗練」を表現する言葉。
音にもその美しさと愛情が深く注がれないといけない。
決して粗野にならず、ていねいに美しい柔らかさを持つ音を心から紡ぎだすことが大切。
デリケートで華奢な表情なので、テンポもそれほど速くはならないだろう。
柔らかく、軽やかに、やさしく愛撫するような雰囲気に包まれていないといけない。

グラツィオーソの語源はラテン語のグラーティアム (gratiam) 。
これはグラートゥス (gratus) という「好きな、好みに合う」「感謝」「喜び」「ありがたさ」「慈悲」「寛大さ」と言う言葉から派生した。

イタリア語で感謝を表す言葉「ありがとう」をグラーツィエ (grazie) と言う。
これはグラツィオーソの名詞形グラーツィアの複数形。
「感謝をたくさんします。」と言うことだと思われる。

  • 女性が複数形で「私のグラーツィエを許します」というのは女性の最も大事な部分をあなたに許す、すなわち「身を任せていいですよ。」と言う意味。
  • 人から気に入られているときにも複数形を使う。
    「私は○○のグラーツィエの中です。」というのは、「私は○○に気に入られている。」と言う意味。
  • 古代ローマの三美神「美の女神、しとやかさの女神、愛らしさの女神」のことをグラーツィエという。
  • 名詞形「グラーツィア」の中には「許し」と言う要素も含まれる。
    「神のグラーツィア(許し)の外だ。」と言うと、許せる範囲を超えている、大変怒っている状態。
    犯罪人に対する恩赦・特赦などもグラーツィアが使われる。

このようなやさしく、上品で、慈悲深く、寛大で、洗練された、完璧な、ただ一人の理想の女性が聖母マリア。
イタリアの人名には「マリアさん」が多いが、「グラツィオーソさん」もたくさんいる。

ドヴォルザーク ユーモレスク 作品10―7

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Cantabile

カンタービレ

歌うように、表情をこめて(同語源 カンタータ、カンツォーネ、シャンソン)

原形の動詞はカンターレ (cantare) で「歌う」と言う意味。
語源となったラテン語はカンタビレム (cantabilem) 。

カンタービレで大切なことは、ただ歌うだけでなく、耳に故知洋物である濃さ、音域にあまり大きな高低差がなく、あまり速い速度ではないことなど。

イタリアの小学校では音楽の授業がない、中学校でも選択授業。
根底には「音楽は習うものではない。」と言う思いがあるようだ。
大テノールの中にもまったく楽譜が読めない人もいる。
ピアノのある家も希である。
音楽は芸術であり、一部の才能ある人のためのものと言う考えがある。
しかし、歌は万民、一般大衆の財産であり、特別なトレーニングを受ける事などなくても、誰もが持つ事が出来る立派な才能なのである。

ラフマニノフ ヴォカリーズ 作品34―14

Espressivo

エスプレッスィーヴオ

表情を豊かに、感情をこめて

原形動詞はエスプリメーレ (esprimere) で「表現する」「自分の気持ちを示す」と言う意味。
語源となったラテン語 exprimere は、ex「外に」、primere「押し出す」と言う意味が合成されて作られている。
英語の express もこのラテン語が語源。(ex「外に」、press「押し出す」)

イタリアでは小さい頃から自分の意志をきちんと表現出来るように教育される。
人と同じである事はあまり評価されない、良い意味での個人主義が根付いている。
ここで、混同してはいけないのが「エゴイズム」。
個人主義は「相手も認める代わりに自分も認めて」というのがルール。

イタリアの小学校では詩の朗読時間が大切にされている。
顔の表情、声のトーンなどの表情を豊かに育てるためだと言われている。
単に上手に読めるだけではダメ、感じた表情が外に出ているかどうか、それがエスプレッスィーヴォの意味。

ちなみにコーヒーのエスプレッソ (espresso) は関係がない。
エスプレッソは、英語の特急電車を意味するエクスプレス (express) から生まれた外来語。

ショパン ノクターン 第2番 作品9―2

Scherzoso

スケルツォーソ

おどけて、たわむれるように

スケルツォーソはスケルツォ (schezo) と言う名刺の形容詞形で、「冗談好きな」「笑わせる」「滑稽な動きをする」と言った意味。
さらに「予期しない」「思いがけない」という感じを持っている。
「真剣にとらえなくても大丈夫」と言った感覚もある。

音楽に置いては、冗談なので決して重苦しくなってはいけない、軽い色調で表現する。
生き生きとして、テンポは速く、三拍子の曲が多く見られる。

イタリアでは「水のスケルツォ=噴水」「光のスケルツォ=イルミネーション」のこと。

リスト 2つの演奏会用練習曲 第2番「小人の踊り」

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