Maestoso
マエストーソ
威厳に満ちた、荘厳な、堂々たる
日本語訳では「威厳を持って、荘厳に」と訳されているが、同時に、感嘆、尊敬の念など「偉大さ」を感じさせる言葉。
語源のラテン語はマイオール (maior) で「より大きい」「より優れた」と言う、比較級の意味を持つ言葉。
そこからマイェスターテム (maiestatem) と言う言葉が生まれ、マエストーソにつながる。
英語のメイジャー (major) と言う言葉もマイオールから生まれている。
指揮者や巨匠の演奏を呼ぶ称号、マエストロ (maestro) も同じ語源。
名詞形のマエスタ (maesta) と言う言葉は、偉大なものを持っている人を指す。
「心が良質」「その人の姿が堂々としている」と言う意味。
マエストーソの代表例と言えば、何と言ってもローマ法王の表情、姿である。
チャイコフスキー ピアノ協奏曲 第1番 作品23 第1楽章
Tranquillo
トゥランクイッロ
穏やかに(な)、心安らかに(な)
通常は「静かに」「落ち着いた」「静寂に」などと訳される。
音量的に静かであると同時に、より大切なのは心の状態である。
「平安な」「心配がない」「迷いがない」と言うような落ち着いた状態がトゥランクイッロ。
「トゥランクイッロにしていなさい。」と言うと、「静かにして」と言う意味だが、前後のニュアンスにより、「心配しなくていいよ。」と言う意味を表す。
トゥランクイッロの反対語は興奮状態の極地であるアジタート (agitato) 。
メンデルスゾーン 無言歌集「ベニスのゴンドラの歌」 作品30―6
Con spirito
コン・スピーリト
元気に、活気をつけて
コン・スピーリトには微妙な意味がある音楽用語。
con は with と同じ意味。
スピーリトは「精神」という意味であるが、総じて「形のない不滅なもの」を指し示す言葉。
気高い気持ちで行動したり、知的水準の高い仕事をするときに必要なのがスピーリト。
スピーリトを「魂」と訳されるのは間違い、「魂」のイタリア語はアニマ (anima) 。
- 「スピーリト持っている人」 → 頭が柔軟で、どんな状況にも素早く対応できること。
- 「実践的なスピーリト」 → 日常の実践的な問題に取り組む時、学んだ訳でもないのに上手に自然に対処する力。
スピーリトは宗教的な意味での「精霊 (spirito sano) 」も意味する。
教会では何度もこの言葉を聞く事になる。
精霊は肉体が滅んだ後にも残り、地上より高い精神世界に行き続ける。
言い換えれば、スピーリトはアニマが昇華した形。
スピーリトが表すものには、高い知的水準、深い知性とユーモアのセンスなどが不可欠。
ここでのユーモアには高い叡智あるひらめきがなくてはならない。
共用がなくては笑う事が出来ない上品さ、といえるかも知れない。
深い核心の部分をさしてスピーリトを使う場合もある。
- 「テキストの深いスピーリト」 → テキストの一番深いところにある意味。
- 「批評のスピーリトを理解する。」批評の奥底にある考え理解する。
演奏においてのコン・スピーリトは、品の良い、輝きを持つ状態。
但し、高尚でありながらユーモアのセンスがある事が重要。
モーツァルト 交響曲 第35番「ハフナー」 第1楽章 KV385
Risoluto
リソルート
きっぱりと、断固として、決然と
原形動詞はリソルヴェレ (risolvere) で、五件のラテン語はレソルトゥム (resolutum) 、意味は「解決する」。
演奏に際しても「解決済み」なのであるから躊躇してはいけない。
- リソルートな人 → 迷いがなく決断力がある人
- リソルートな色調 → 強烈で鮮明な色調
ショパン 練習曲「木枯らし」 作品25―10
Dolente / Doloroso
ドレンテ、ドロローソ
Dolente 痛ましげな(に)、悲しそうな(に)
Doloroso 悲痛に(な)、悲しそうに(な)
ドレンテは「痛み」を表すドローレ (dolore) と言う語から由来している。
身体的な痛みだけでなく、精神的苦痛からくる悲しみ、苦しさもドレンテで表す。
ドレンテの悲しみは「今、現在痛い」と言う、現在進行形の辛さ、痛み。
ドロローソも痛みを伴う悲しさ、苦しみであるが、ドロローソの痛みはドレンテよりもさらに強く、「この先も続く、持続性のある痛み、苦しみ」。
ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」より「古城」
Agitato
アジタート
激動した、興奮した、引っかきまわした(同義語 アジる)
強く激しく動いている様子がアジタート。
もとの動詞アジターレ (agitare) には「振り動かす」「揺さぶる」「掻き乱す」「興奮させる」と言う、何かを大きく動かしている状態を表す。
何かを大きく動かしている状態
- 風が強く吹いて、葉が激しく揺れている。
- 化学実験で試験管の中の液体を激しく攪拌する。
- 厚くて扇子を激しくパタパタとあおぐ。
- 旗を激しく振り回す。
大きな動きがあって気持ちが興奮する状態
- 子どもの結婚式の準備で親がアジタート。
- 夕食の準備でアジタート
- 待ちに待ったデートの日がやってきてアジタート。
語源はインド・ヨーロッパ語属に観られるアジェーレ (agere) で「動かす」という意味。
ラテン語に取り入れられてアジターレ (agiare) となった、意味は「押す」。
この「押して動かす」状態がアジタートの根本的表情。
ショパン 幻想即興曲 作品66
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