音楽用語のはなし

奏法

Fermata

フェルマータ

①延長記号
②コラールでは息つぎ

フェルマータは運動の停止、時間の停止を意味する。
バスや路面電車の停留所として使われる。
ちなみに鉄道の駅はフェルマータではなくスタツィオーネ(英語のステーション)。

原形動詞は「動きを止める」を意味するフェルマーレ (fermare) 。

  • 機械を止める
  • 歩いている人を呼び止める
  • ゴールキーパーがボールを止める
  • 雨で試合が中断する

不安定な物を安定させるような場合もフェルマーレ。

  • 落ちそうになった洋服のボタンをきちんと留める。(落ちるのを止める。)
  • 風が吹いてばたばた音のするドアを固定する。(音を立てるのを止める。)
  • ゆであがったパスタに水を差して、ゆですぎを止める。
  • ひらめいたアイデアを書き留める。
  • 名前忘れないように記憶に留める。

強制的に留めると言う意味もある。

  • 警察が犯人の身柄を拘束・留置する。

フェルマーレという動詞はラテン語のフィルマーレ (firmare) から生まれたもので意味は「強固にする」「きちんと止める、留める」。
「きちんとゆるぎない状態にして留める」と言うところから派生して「署名・サインする」と言う意味が生まれた。
イタリア語で「サインする」ことを、まさにフィルマーレという。
つまり「フェルマータ」と「サイン」は語源がまったく同じで、「動かないように止める、留める」と言う事になる。

フェルマータが楽譜上に始めて記されたのは1400年代初期のこと。
1700年代には曲の途中につけられたフェルマータの部分で停止して「即興演奏を挿入する」と言う意味にも使われた。
この形が進化して現在の協奏曲で聴かれるようなソリストによるカデンツに発展した。

フェルマータはイタリア語なのであるが、イタリアではフェルマータ記号のことを「コローナ(冠と言う意味 corona)」と言う。
この記号の由来はいくつか説があるが、代表例は「コロナ説」。
「皆既日食によって昼間が一瞬にして夜のように暗くなり、生活や行動が停止する。」というもの。

もうひとつは象形説。
「手 ( ⌒ )で物 ( ・ ) を固める、留める。」と言う説。

ベートーヴェン 交響曲第5番 「運命」 作品87 第1楽章

Legato

レガート

なめらかに

物体を紐・綱などで縛り、結んでひとつにした状態がレガート。

  • 髪を縛る。
  • 荷物を縛る
  • 犬をリードでつなぐ
  • 金の指輪に宝石が埋め込まれている → 宝石を金の指輪にレガートする
  • バラバラになった本のページを結び直す → 各ページを本にレガートする
  • 警察官が犯人の両手に手錠をかける → 両手をレガート

精神的につなぐ事。

  • マフィアは強い絆でレガートされている。

音楽的には「音と音が結びつけられひとつになった状態」が、「音と音がつながり、離れないように演奏する」と言うように意味が転じて、現在の「滑らかに・音を切らずに」につながっていったのであろう。

ヴァチカン市国では各国に派遣している大使をレガートと読んでいる。
「教皇と結びついた者」と言う意味を表している。

ショパン 練習曲「別れの曲」 作品10―3

Staccato

スタッカート

分離する、音を短く、次の音との間をあけて

レガートと反対の意味を持つ音楽用語がスタッカート。

スタッカートは「切る」のではなく「離れた、分離した」と言う意味。
原形動詞スタッカーレ (stacare) の意味も「話す、分離させる」。

  • 仕事からスタッカーとして家に向かう
  • 日曜日には日頃のストレスからスタッカート
  • 現代アートで強いコントラストをなす二色は、スタッカートな色の関係
  • マラソンで一位が二位を大きく引き離している → 一位が二位を大きくスタッカート
  • 切手をはがきからスタッカート
  • シールをスタッカート
  • 電車の車両連結をスタッカート
  • あの人は危険人物だからスタッカーとした方がいいよ

スタッカートを定量的に定義することは危険。
ケースバイケースで、音楽のいろいろな要素を考慮して表現する事が大切。
ある時は大変短く、またあるときは長めになるのは当然の事である。

アルベニス 「スペイン組曲」第5番 アストゥリアス

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Tenuto / Sostenuto

テヌート/ソスフヌート

音の長さを十分に保って/各音符の長さを十分に保って、テンポを少しおさえ気味に

テヌートとソステヌートは似て非なるものである。
両方とも「保つ」事であるがテヌートは「上から押さえて保つ」、ソステヌートは「下から支えて保つ」状態。

テヌートの原形動詞はテネーレ (tenere) 、「逃げないように引き留める、押さえておく」「落ちないように、動かないように手で押さえる」と言う意味がある。

  • バッグを持っててちょうだい → バッグをテヌートする
  • はしごを押さえててね → はしごをテヌートする
  • 騒音がうるさくて眠れなかった → 騒音が私を眠れない状態にテヌートした
  • 笑いをこらえられず吹き出してしまった → テヌートしたんだけど吹き出しちゃったよ

ソステヌートの語源はラテン語のスプスティネーレ (substinere) で「下から支える」と言う意味を持つ。接頭辞の「sub」は「下の」と言う意味。

  • あいつはコネがある → あいつはソステヌートされている
  • 学費を援助するして費用を支えて(ソステヌートして)あげる
  • 精神的に苦しんでいる人を支える(ソステヌートする)
  • 遠く離れた恋人は深い愛情でソステヌートし合っている
  • 橋は橋げたによってソステヌートされている
  • 植えられたばかりの木は添え木によってソステヌートされている(ちなみに添え木はソステーニョ(支えるもの)と言う。)

一般的にソステヌートは高い品格、気高さ、尊厳などで支えられた状態を指すが、一転して、傲慢さを表す場合もある。
近寄りがたくエラそうな人を「ソステヌートな人」と言う。
この近寄りがたい尊大な雰囲気によって演奏の際、少し遅くして「ソステヌート=ラルゴ+グラーヴェ」と解釈する人がいるが、それは演奏方法の結果のひとつであってソステヌートに本来、速さに関する意味合いはない。

言葉としては両方「保つ」であるが、その保ち方の違いを理解したい。
テヌートが音符をしっかりつかみ、しがみついている様子を表すならば、ソステヌートは下から音を支えるイメージ。

ベートーヴェン ピアノソナタ 第14番 「月光」 第1楽章 作品27―2

Ritenuto

リテヌート

遅く(だんだんに遅くするのではなく、そこから直ちに遅く)

テヌート、ソステヌート、リテヌートは同じグループの言葉。
おおもとはテヌートの「保つ」であり、他はそれに加えて「どのように保つか」と言う状態を表す言葉。

リテヌートの「リ」は強調も意味する。
従って「もっと、再び持つ」という感じにナル。
上から押さえられた状態から、さらにもっと強く押さえられる状態。
さらに「自制して慎みを持って、用心して思慮分別にかけることなく」と言う意味もある。

語源はラテン語のレティネーレ (retinere) で「後ろに保つ」と言う意味。
日常会話ではあまり使われないが、よく人にたとえて「リテヌートの人」と言われる。
話したり行動したりする時に、よく考えてから「慎重に、控えめに行動する人」という感じ。

演奏に際しては、だんだん遅くしていくのではなく、その部分だけを遅くするのが寒冷だが、例外もある。そんな時は前後の関係で雰囲気をつかみ、遅くするタイミングを計るようにする事が大切。

ショパン スケルツォ 第1番 作品20

Marcato

マルカート

各音をはっきりと、アクセントをつけて、強調して(同義語 マーチ)

マルカートは英語で言う「マーキング (marking) 」のこと。
何かある者に特別の注意の目を向ける事。

イタリア語では原形動詞マルカーレ (marcare) の過去分詞なので「強調された」「際だった」と言うような意味を持つ。
ちなみに名詞はマルカ (marca) であり、「商標」と言う意味でも使われる。

  • 忘れてはいけない日はカレンダーに目印をつける
  • 教科書やノートのポイントとなる箇所に色づけする
  • 犬が電柱におしっこをひっかける
  • 目鼻立ちがはっきりしている人(マルカートな顔立ち)

演奏の際、マルカートはがんがんと音を強く鳴らせばいいという者ではない。
ここで際立たせるのでは「音量」ではなく「音質」。
演奏者がイメージを明確に持ち「こうやって、この音を聴いている人に届けるんだ!」と言う思いを持つ事が大切。

リスト パガニーニ練習曲 第4番 「ラ・カンパネラ」

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